え……今、“乃々花”って言ってもらえた?



「今、“乃々花”って……」


「だって、友達になったんなら、いいでしょ?それとも、“乃々花”より“桑野”の方が好き?」



ヘドバンか!って言われそうなくらい、首を横に振った。“乃々花”って呼ばれるの、すごく嬉しいもん!!松原さんは、そんな私を見て笑ってる。


松原さんの笑顔、見たことなかったけど、すごく綺麗。元々、美しいお顔立ちなのに、笑うと目尻が垂れて、口角が上がって……。女の私も見惚れてしまうくらい!



「乃々花も、“松原さん”って言うの、やめてね。」



「うん。じゃあ……寧々さん…?」



「“寧々”じゃダメなの?」



それはさすがに、ハードルが高い!洸夜くんだって、まだ“くん”付けだし……。



「だったら、寧々先輩ね?洸夜に聞いたけど、来年から星流に入るんでしょ?そしたら、私は先輩になるから。」



それならいいでしょ?と言ってくれた松原さ……寧々先輩。


洸夜くんの他にも、私の未来があるって、思ってくれてる人がいる。それが、すっごく嬉しい。




「了解です、寧々先輩っ!」



「ん、よろしい。」



変な言い方に笑ってしまう。洸夜くんとは別の楽しさが、寧々先輩とお話する事で、感じられた。




「っていうか、洸夜の“くん付け”こそ、そろそろやめれば?」



「んー、どのタイミングがいいのか、わからなくて………」




何度かチャレンジしようと思ったんだけど、難しかったんだよね。




「じゃあ、今から洸夜が帰ってきたら、言おう!」



「えっ!?急すぎですよ!!」



心の準備ができてないんです!



「急でもなんでも、“洸夜”って、たった3文字くらい言いなよ!2文字減るんだから、時間削減だと思えば?」



いやいや、そんな事務的な事じゃないですよ!呼び捨てって、したことないし……。



「洸夜のために、呼び捨てしてあげなよ。」



「洸夜くんのため……?」



「そ。洸夜、私に“乃々花が呼び捨てで呼んでくれたことないんだよな……”ってぼやいてたから。“くん付け”は、ちょっと距離があるみたいで、嫌なんだってさ。」



洸夜くん……そんな事、思ってくれてたの?顔、にやけちゃうんだけど!



洸夜……って、上手く呼べるかな?




「……頑張ります!」




「うん、その息!頑張れ!」



乃々花、頑張ります!!!



「たっだいま〜。」



うぉ、ナイスタイミングでの登場ですね、洸夜さん。




「あ、帰ってきた。じゃあ、今度は私が消えますね。乃々花、バイバイ!洸夜も、また明日。」




颯爽と帰っていった寧々先輩。なんというか……すっごく強そうだな。性格的に。悪い意味ではなく!




「松原と、なれた?友達。」



「うん!洸夜、ありがとうっ!」




どさくさに紛れて、“洸夜”って言った。どうか、突っ込まれませんように!




「………え?」




いつもの端正な顔が、ポカーンってなってます。レアです。目を見開き、口は微妙に開いてる。こんな顔してる洸夜、初めて見たなぁ。


つらつらとそんな事をぼんやり思って、洸夜を見ていると、今まで石像のように動かなかったのに、急に顔がボッと赤くなった。




「い、今の、呼び捨て………?」




なんか、改めて言われると恥ずかしい。洸夜の赤面がこっちにも移っちゃった!!




「う、うん。」




ぎくしゃく………。