洸夜くんの退院まで、残り2日。




1週間をきってからも、これまでと変わらず、外のいろんな話や学校の話を聞いていた。





「乃々、洸夜くん、見舞いに来たぞ。」





普段なかなか来ないお兄ちゃんが来た。





「お久しぶりです。」




「どうしたの?」




「どうって、洸夜くんがもうすぐ退院だから、今までのお礼にね。」





頭で分かっていたことを、いざ言葉にされると、それは鋭いトゲとなって、私の心に刺さった。




もう、残り2日。最初は、乗り気じゃなかったのに。





「お礼なんて、わざわざありがとうございます。」




「いやいや、これくらいは当然だよ。乃々が変わったのも、君のおかげだろうし。」





「そんな、大したことしてないですよ。」





お兄ちゃんと洸夜くんの会話が、どれも悲しく聞こえる。何一つとして、私が悲しむ要素はないのに。





「これ、ゼリーの詰め合わせだから、ご家族と一緒にどうぞ。」




「うわ、こんなにたくさん。ありがとうございます。妹も姉も、ゼリー好きなんですよ。」





「そっか。なら良かった。」





遂に、あとわずかだって、決定的なトドメがきた感じ。最初からわかってたけど、いざとなると、簡単には受け入れられないんだな。


2人の話に入りに行くのが辛くて、ぼーっとしていると、病室の扉が開いた。




開けた扉の向こうには、いつかの日と同じように、陽菜ちゃんが仁王立ちしていた。



「にぃに〜!!」



またも、元気に洸夜の方まで走っていく陽菜ちゃん。とにかく、可愛い。


陽菜ちゃんが来たってことは………と思って、扉に目を向けると、案の定すぐに夕菜さんが来た。




「陽菜、いっつも待ってって言ってるでしょ!」



「ごめんなしゃい……。」



「はぁ。」




3週間ほど前と、何も変わらない光景に思わず、笑みをこぼした。




すると、夕菜さんがこっちを見た。すると、なぜか、固まった。




「か、翔!?」


「よー、夕菜。」



夕菜さんのびっくりした声と、それに呑気に返すお兄ちゃん。温度差がすごいけど……まず、知り合いだったの?



洸夜くんも、目を見開いて、2人を見てる。





「なんで、翔がここに?」




「妹とお前の弟の見舞い。」




「妹………って、」






ゆっくり私に目を向けた夕菜さん。それから、私とお兄ちゃんを交互に見る。その目には、明らかに困惑の色が。





「乃々花ちゃんのお兄さんが、翔?」




「だから、そうだって言ってんじゃん。」




「うっそーーー!!!!」





夕菜さんがパニックになってしまった。陽菜ちゃんも、夕菜さんの叫び声にビックリしたみたい。ピクッて小さな体がはねた。





「姉貴、落ち着けって。翔さん、説明してもらっても、いいですか?」





「ああ。夕菜がパニックになってる理由も、なんとなく分かるし。」





それから、お兄ちゃんは淡々と説明を始めた。




お兄ちゃんと夕菜さんは、同じ大学に通ってる同い年。ただ、学部が違うため、つい最近まで面識はなかったそう。お兄ちゃんが無理矢理連れて行かれた合コンという集まり(?)で、初めて会った。それから意気投合し、近頃は仲良くしている。……らしい。




「それで……姉貴と俺のこと、いつ気がついてたんですか?さっき、姉貴たちが病室に入ってきた時、驚いてませんでしたよね?」




「だって、神山なんていう名字そうそういないし。あと、夕菜が『弟が骨折した』とか『弟の同室の子が、イギリスとのハーフで可愛くって。翔と同じだね!』って、言ってたから。こんなに偶然重ならないだろ。」





確かに。そこまで、夕菜さんが話してたなら、お兄ちゃんがだいたい感づくのも、納得できる。でも、なんで夕菜さんは気づかなかったんだろう。“神山”よりも“桑野”の方が珍しいから、分かると思うんだけど。