洋介の行動に驚きつつも、それ以上深く聞いてこない事に安堵した美春は、気を取り直して、仕事に取りかかった。


…ようやく仕事が終わったのは、9時を知らせる掛け時計の音が鳴った時。

出来上がった書類を部長のデスクに置くと、洋介は怪訝な顔をした。

何事かと、美春は気が気じゃない。

厳しい事で有名な洋介。

何か不備があったのもしれないと、息を飲む美春。

「…不備はない」

その言葉にホッとした。

が。


「…これは、お前に任せた仕事じゃないよな?」

「…水島くんは、別件で急用が出来たので、代わりに私が」

その言葉に、急に立ち上がった洋介は、美春のおでこを小突いた。

美春は一瞬顔を歪め、おでこを押さえて、洋介を見る。

「…お前は真面目過ぎなんだよ。これくらいのこと、水島にやらせろ」

「ですが」

睨まれてしまい、口をつぐむ美春。

「自分の仕事量を考えろ。次に他のやつの仕事引き受けたりしたら、許さない。さっさと帰れ」

美春は他人の2,3倍は、仕事を抱えている。それを知ってる洋介は、美春が心配なのだ。

シュンとした美春は、それを知らないまま、洋介に頭を下げると、デスクからカバンを取ると、オフィスを後にした。