「…ラーバン王」
廊下を曲がろうとした所で、ようやく声をかける事ができた。
ザスクートは、手元の資料を覗きこみながら密かにため息をつく。
「ラ・サズリック王国から、舞踏会への誘いがきていますが」
「…すぐに、断りと詫びを入れておいてくれ。後は任せる」
「行かないおつもりですか?」
斜めに視線をずらしながら、鼻で笑う。
「その日は、少し用があるんだ」
「…まだ日にちは伝えておりませんが」
いつの間に、こんなに成長したのだろう?
顔つきが幼さを抜けて、凛とした精悍な顔つきに変わってきている。
急成長ともとれる急激な成長に、ザスクートは不安を覚えた。
すぐにでも成長しなければならない事でも、あったのだろう。
あえて干渉しない所が、いけない所ともとれるのだが。
からかったら反応する所がせめてもの救いなのだ。
「とにかく、だ。今すぐ、ラ・サズリックに伝えておいてくれ。ザスクート、お前に任せる」
「かしこまり」
王の前でこんなふざけた返事ができるのは、未来永劫こいつだけだろう。
再び歩き出す王にまだ用はあったのだが、ザスクートには王の歩みを止める事はできなかった。
結局、自分には何もできないのだから。