「…ベルカは?」
気持ちとは関係なく、相手の気持ちを聞いてしまう。
自分の気持ちを、押し付けたい。
「私…は…」
視線を斜めにずらし、口ごもるベルカに冷たく暗い感情を覚える。
凶暴な何かが、胸の中でうずいた。
ラーバンの足が、ベルカの元へ進む。
目の前で立ち止まったラーバンの目は、背筋が凍る程の冷ややかさだった。
「…ラーバン王?」
全て奪って、自分のものにする事ができないのなら。
伸ばされた手が、ベルカの頬に触れた。
震える手を必死におさえ、口から言葉をもらす。
「ベルカ、動くな」
それは、『王』からの言葉だった。
紛らわしく思っていた立場を、使ってまでの。
こうする他、なかった。
水色の瞳から、場違いな程の温かい涙が流れた。
唇を、重ねる。
瞳が光を遮断したのか、光が沈んだのか、分からない。
どちらにしても、何があっても、今の自分には、もう何もいらない。
ベルカが手に入らないのなら、もう何もいらない。
手に入ったら、なんて、もう考えられない。
最後…だった。
諦めようとした想いとは裏腹に、何処までもベルカを求めてしまう。

あの時感じた想いは、確かな『殺意』だった。
手に入らないのなら、もういらないから。