物理の勉強が終わったのは、太陽が沈みかけた時間帯だった。まだ冬は遠いが、少し肌寒い。
「やーっと終わった。…もうすっかり寒くなったのな」
窓の外を見ると、柔らかな月の光が庭園に落ちている。
他の部屋と比較的小さい勉強部屋は、大きな黒板と木の机がいくつか置いてあるだけの、質素な部屋だ。
ムーストンは、黒板に届くようにと置かれた台からゆっくり下りて、精一杯顔をしかめて椅子に座った俺を見上げた。
「レディック王太子殿下、ムーストンめはこれで失礼させていただくが、今度からは今日のような事がありませぬように。ムーストンめも困ります」
失礼なようだが、全く迫力がない。
知らず知らずのうちにため息をついた俺は、レベッカに目配せする。レベッカもまたため息をつき、腰に手をつけムーストンに優しく語りかけた。
「ムーストン様、そろそろ戻られてはいかがですか。お疲れでしょう」
「…うむ、そうするとするか」
うむ、なんて今時使わない。ムーストンは、愛らしく歩き俺に一礼して部屋を去った。
「レディック様、体が冷えます。…どうぞ」
肩に、レベッカの青い隊服が優しくかかる。動きやすさ重視なのか、意外な程飾りがなく軽い。