寒気がする。
息がつまるような咳をすると、扉の前の従者が水を差し出してきた。
―またこいつか。
首を振って水を拒むと、温かい紅茶が目の前に差し出される。
痛む頭を上に上げると、そこにはベルカの顔があった。
驚きが苦しみを上回り、一瞬大声を出しそうになる。
「ラーバン王、雨の中外にいらっしゃったのでしょう?」
「あぁ」
かすれた声で返事を返すと、ベルカの微笑みが一層深くなった。
「何か見ていたのですか?私も、来ていたら良かった」
頬が、緩む。
だがラーバンは、気持ちをこらえるようにぐっと息をひそめた。
いけないのだ。
身分が違う。
この気持ちは、『恋』なのだから。
何故、想いを隠し通さなければならない?
権力ですら及ばないこの気持ちに、終わる時があるのか?
頭の中が、ぼーっとする。
悔しくて、虚しくて、どうする事もできない。
「ベルカ…」
手の届く距離なのに、何も掴めない。
「ベルカ、ベルカ」
「…ラーバン王?」
その笑顔を、壊してしまうかもしれない。
離れていくかもしれない。
そんな事を恐れて、後1歩が踏み出せないなんて馬鹿げてる。
目頭が熱くなって、涙がこぼれた。
ベルカの手が、のばされる。


