だが、余裕だった一瞬も束の間。
目の前には、女性が1人立っていた。
とっさに体をひねり、片手を女性の体に回す。
そのまま抱きかかえるように、でもなるべくかばいながら床に突撃。
「…っ」
耳元で、声にならない叫びが聞こえた。
素早く体を起こし立ち上がり、倒れている女性に手を差しのべる。
「…すまない。急いでいたから…」
打ってしまったのか、片手が少し痛む。
痛みに顔を歪めないよう、不自然に口元を引きつらせた。
「いえ…すみません。ラーバン王に、このような無礼を…」
凛とした、涼やかな声。
思わず顔を見つめてしまう。
薄い緑色の瞳に、腰まで続く薄い金色の髪の毛。
全体的に色素が薄いが、それでも美しかった。
窓から、夕日が優しくおちる。
「…私、ラ・サズリック王国ベルカ・プレスト…と申します」
ベルカの細い5本の指先が、ラーバン王の差し出された手の平にのった。
軽く握り、適当な力を加えながら立ち上がらせる。


2つの手だけが、2人の空間を繋いでいた。
静かに静かに、若き王は息を吐いた―。