その時、ひかえめなノック音が静かな部屋に響いた。
「どうぞ」
確認もせずに開けるとはさすがに不用心だと思ったが、ノックしてから襲ってくる敵もいないだろう。
礼儀作法は完璧だが、そういう奴は職業を間違えていると思う。
「シエーザー様、お食事の方は…?」
「あぁ、もう1人が戻ってきてからで…」
現れたのは、10になったかなってないかぐらいの子供だった。
茶色くて短い髪の下には、小さくてそれなりに整った顔。
よく動きそうな大きくて丸い目は、不安と好奇心に満ちあふれていた。
ロアとセアが成長したら、多分こんな感じになるだろうと想像してみる。
「君、何歳?」
「…9つです。シエーザー様」
おいで、という風に手招きすると、戸惑いながらも小走りで隣に座る。
俺を見上げてくるその目は、もう好奇心で一杯だった。
「名前は?」
「ナタル・ランディーリー。お父さんとお母さんが、この宿屋をやってる」
「そっか、大変だな。…手伝いとか」
ナタルは小さく首をふると、足を揺らしながら話し始める。
「ううん。僕は全然大変じゃない。いつか大きくなったら、絶対にこの宿屋をついで大勢の人を泊めてあげる。そう思ってるから、全然大変じゃないんだ」