発達したその国をのっとろうと企む国々も少なくなかったのです。…その代表が、カスクライ王国だったというだけで」
俺の全く知らなかった歴史が、あったなんて。
微かに、肩が震えた。
「そして、レディック様が11歳の時急襲されます。クリスタント様は、味方軍の兵士がいなくなっても敵軍の何万もの兵士に向かってたった1人で、剣を振る舞われました…」
多分、記憶をなくした俺なんかより辛い記憶を取り戻したレベッカの方が、何倍も何倍も辛いと思う。
あの時の事を思い出しているのか、レベッカは思いつめた怒りの表情で、かたく目を閉じたまま歯ぎしりした。
「…あんな他国の何万もいる兵士に、殺されていいような方じゃない。惜しい…方でした…。カスクライ王国の軍は、何かの不注意で王城の西に位置する農村を燃やしました。広大な面積の畑や田は殆どが燃え、カスクライ王国があれ程欲しがっていた資源はなくなったも同然でした」頭の中に、あの風景がうかぶ。
燃やされた、ラ・サズリック王国。―俺の母国。
空は暗くて赤く、自分の居所さえもつかめない。
いつの間にか、両手を握りしめている自分に驚きを隠せなかった。
包帯の下の傷口が、心なしか痛み赤く染まっていく。