「サワスト!!…サワスト!!」
後ろで、死んだ兵士の名前を呼ぶ声が聞こえる。
知ってる。その名前を、俺は知ってる。
『レディック…お前に守るものは、あるのか?失うものが、あるのか?』

『死』さえ、今の俺にとっては遠い楽園。


情けない程、目から涙が溢れてくる。
最初のうちは手で涙を拭っていたが、意味がないからもうやめた。
視界がぼやけているので、どこを走っているのか分からない。
ただ靴で踏み込む大地の感触と、強く握ったレベッカの手だけが頼りだった。
ぼやけた視界が、少しずつ光を閉ざしていく。
「ベルクの森です。ここだと、隣国に位置するサラザレット王国にも時間をかけずにすぐ行けますし、そうすると追っ手の数も少なくなる」
「なんで」
裏返り、半音高くなったその声に、俺は下を向き唇を噛みしめた。
涙が靴の上に落ちていく。
レベッカは、低く小さく笑いをかみしめると握った手の力を緩めた。
「あのイグナイア王が他国の兵を簡単にいれるはずがない。…そしてこの道を選んだのは、ラ・サズリック王国への近道だからです」
「…んでだよ」
悔しさが、沸々と沸き上がってくる。
「…んで、あいつはあの場で殺さなかった?」