「あああ!!……ああ…!!!」
耳を塞ぎたくなるようなその声は、部屋にいる全ての人間の動きをとめた。
「血、血!!…痛い…」
足が激しく震えて、うまく進めない。
後一振りで痛みから解放させてあげれるのに、剣がうまく持てなかった。
「…レ…レデ…ック」
自分の名前が呼ばれている事に気付くまで、時間はかからなかった。
ただ、喉から口からとめどなく流れ出す血の赤さに目を奪われて、口を動かす事ができなかった。
「お…まえにま…もるものは、ある…のか…?失うものが…ある…のか?」
頭がひどく痛む。
少なくとも、ここにいる兵士達1人1人には守るべきものがあるのだろう。
それは、1人の愛する人間だったり、何人もの友人だったり、家庭・家族・風景、そしてこの母国だったり。
だけど、俺に大切なものがあるだろうか?
今までの全ての思い出が、敵につくられたニセモノで、つくられたもので。
それが分かった今、俺に失うものがあるだろうか?
そうしている間に、レベッカが視界の中に現れ兵士の首を斬った。
静まりかえった室内に、倒れる音が虚しく響く。
その場から動かない俺の手をひいて、レベッカは窓が飛び降りた。
瞬間を永遠にしたいと、強く願った。