One s death -the last sword-

「時々、クラバスの目が、すごく怖くなるわ」
先に、サラが目をそらした。
同時に、隣に座る。
手に、他人の手が触れた。
誰のものか、瞬時に分かった。
「聞いていい?」
「常識的に聞いていい範囲なら」
「小さい頃、何があったの?」
そんな事聞かれたの、初めてだ。
自分でも不思議に思う程、落ち着いていた。
生唾を、飲み込む。
背もたれに体を預け、空だけを見つめた。
「9歳の頃、母親が浮気したんだ」
不意に、繋いだ手に力がこもった。
サラの表情が分からないのが、もどかしい。
「俺、その時世界をなめきってて、貴族の生き方も、全部嫌に思ってた」
どう話したらいいのか、分からない。
本当にこの事が言いたいのかも分からないし、どう言ったらいいのかも分からない。
「友達からの手紙を、父親に捨てられた。今思えば、本当に些細な事だ。
けどその手紙を探して、その事で父親に怒られて」
今でも、胸に重くのしかかる。
父からの、1言。
「『生きる価値もない』って言われたんだ」
口元が、緩む。
笑う他、なかったんだ。
「もう、壊そうと思った。全部、いらないと思った。母の浮気をばらして、家を飛び出したんだ」
サラからの、返事はなかった。