One s death -the last sword-

「さあ、早く。お客様がお待ちよ」
階段をおりていくと、すぐにあの笑い声が大きくなる。
耳を塞ぎたくなるような、偽りの世界。

吐き気がする。

「あら、この子は?」
「息子よ。ほら、ザスクート」
「こんにちは」
促されて、挨拶する。
それを見て喜ぶ大人は本当に馬鹿だと、つくづく思う。
無駄に長い机には、たくさんの料理が並んでいた。
母の、唯一の自慢。
堂々と真ん中を歩いていき、バイオリンを肩に置く。
すうっと、じれったいくらいのスピードで息を吸い込み、口端だけで密かに笑ってみる。

紡ぎ出された音楽は、少年には似合わない激しいリズムだった。
静寂を切り裂くような、ある意味暴力的な。
胸に突き刺さってくる、少年がつくりだした『音』の数々は、全てのものを一切拒絶していた。
その場にいた大人の顔つきが、どんどん変わっていく。
胸の内から、何故か恥ずかしさがわいてきた。

「あれ程、この音楽は駄目って言ったのに…」
隣で、母のうめくような声が聞こえた。
俺は、更にスピードを上げていく。

全てのものを無視しながら。
全てのものを拒絶しながら。

そんな孤独な状況にいながら、少年の音楽は尚も続いていった。