「えぇ、鉄格子。この頃、泥棒が多いから…」
「大丈夫なんですか」
「なんとか」
朝日は、眩しく城を照らしていた。


「……お疲れ」
城の外にあるベンチに座っていると、頬に冷たいものが押しつけられた。
あまりの冷たさに顔をひくと、サラの笑顔が目にうつった。
「冷たい、飲み物だけど?嫌いかしら」
素直に受け取ると、サラの笑顔は一層深まる。
冬だというのに、2人とも汗をかいていた。
「貴方、何処から来たの?」
「何処だったかな」
「教えてくれないのね」
すねたようにグラスを傾け、一気に飲んでいく。
いつもの冷静さは、何処に行ったのだろう?
「教えないんじゃなくて、思い出したくないんだ」
「もう思い出してるくせに」
思い出したくないのは、本当なんだけど。
手の中でグラスを揺らすと、中身が飛び散る寸前で元に戻っていく。
息をつく。
「クラバス、だて眼鏡でしょ」
1瞬、心臓が大きくなった。
頬を引きつらせながら、サラに向き直る。
「どうして?」
「本当なの?」
悪戯が成功した子供のような笑みを誘う、笑顔。
「どうせ、2分の1の確率でしょ?賭けてみようかと思って」
「賭け…」
本当は、極度の馬鹿なんじゃないか。