数分後。


廊下側の閉められた磨りガラスの窓に、紗菜と先生達が通る姿が映る。彩はその姿を見て怖くなり、大和を見る。大和は、大丈夫だと安心させるような目をして頷いた。その瞬間、


ガラッ


教室のドアが開き、紗菜と共に朝倉を中心とした学年の先生達が数人入って来た。

「言いに来てくれてありがとう、皆木。席についてくれ。」

紗菜が席についた後、先生達は改めて黒板の文字に注目した。
教室に来た先生は、学年主任の朝倉と担任の樫谷、5組担任の野原と4組担任の釜山という面々であり、彼らを見た生徒達は一気に背筋が凍る。
それは、中でも朝倉・野原・釜山の厳しい3人組を、まとめて三銃士と呼ぶ生徒もいるほどだからだろう。

「もう1度聞くが、これを書いた人はいるか?」

朝倉の質問に誰も手をあげない。

「本当にいないんですね?名乗り出るならタイミングは今しかもうないですよ。」

野原は念には念を押すが、誰も出てこない。

「とりあえず、他のクラスにも聞いて来ましょうか。」

「そうですね。他クラスでもおかしくは無いですし。」

「先生達はこれから他のクラスにも聞きに行くから、皆はここで自習をしていてください。」

釜山の発言で先生達は3組を1度後にし、他のクラスへ向かって行った。



「どうにか怒られずに済んだな。」

「はー、一時はどうなることかと思ったぜ。」

小声で呼びかける凌駕に対し、大声で話す陽翔。

「ばっ、声でけえよ陽翔!聞こえちまうだろ!」

「あ、悪い悪い!」

呑気な陽翔に注意する凌駕を見て、クラス中が緊張を忘れてクスクス笑っている。
彩と大和は顔を見合わせて呆れ合った。



その後、他の4クラスに聞いても犯人が出てこず、2時間目を少し遅らせ学年集会を開き、2年になって気が緩んでいると喝を入れられた。



その日の昼食。

「芽生ちゃん誰かに殺されたのかな。」

朝の件を踏まえて梨々佳が話し始めた。

「そんなことある?自殺だって言われてたのに。」

「殺されたなんてしたら、警察も捜査ミスってことになるし、なかなかそんなこともなさそうだよね。」 

単なる自殺だろうと話す春菜と麻里香。

「うーん、やっぱそうだよね。悪戯だよね。」

麻里香も2人の話を聞いて事件ではないんだと確信する。

「でもさ、私芽生ちゃんが自殺するような子には見えなかったよ。なんとなくだけど。」

彩は思っていたことを話す。

「彩まで何言ってんのー。自殺する人が皆するような人に見える訳じゃないんだからさ。」

麻里香に言われて、今更自分は何を考えているんだろうと思う彩だが、どうしても納得できない気持ちは心に残ったままだった。