「ばか、素手で触ったらーーー」
「いった…」

大きな破片だから大丈夫だろうと思ったのに、思いの外切り口が鋭かった。
ざっくり切れた人差し指。
痛みで引っ込めようとした手を、タクが反射的に掴んで…、あろうことか、そのまま自分の口に含んだ。

「な…っ」

驚きのあまり固まる私を物ともせず、タクは ん、とご丁寧に綺麗になめた指を差し戻す。
指をなぞるタクの舌の感覚に、ぞわりとむず痒くなる。
なにこれ。

「だから素手で触るなって言ったのに…沙穂?」

言葉にならない。
言いたいことはいっぱいあるはずなのに、なにから言えばいいかわからない。
タクは不思議そうに私の顔を覗き込んで…やがて、なにかに気づいたかのように、徐々に赤面しだした。

「…風呂、沸いてるから早く入れ」

すっくと立ち上がると、背を向けて洗い物を始める。
やけにカチャカチャとうるさい食器たち。

「…わかってる!」

やっぱり何を言えばいいのかわからないまま、私は逃げるようにお風呂場に駆け込んだ。