梅雨の時期といえば、憂鬱なのは、雨だけじゃない。

「テストどうしよう…」

机の上に広げた問題集は、真っ白。
数学のわけのわからない文字が羅列している。
中間テストが差し迫る中、危ない教科は数学。
私はタクと違って、根っからの文系なんだよね。

「いっそ捨てるか」

来年からは文理別れるし、今年だけなんとか凌げば。
一応進学希望だけど、推薦狙いでもないし、1教科くらい捨てても大丈夫。
中間ダメでも期末があるし。

「何を?」
「うわっ」

扉の隙間から、タクが顔を出す。

「どうしたの…」
「それは俺のセリフ。部屋の前を通ったらうなり声が聞こえたから覗いただけ」
仮にも女子の部屋を、堂々と覗いたって言えるのがすごい。
まあ、女子といっても別に居候先の他人だし?
そんなに気にすることじゃないのかもしれないけど。

「うなり声ってひどい。数学がわからなくて頭抱えてたの!」
「へえ、数学?」

タクは後ろから、真っ白な問題集を覗き込む。

「ああ、今この辺やってんのか。これ少しややこしいんだよなあ」

体制的に、耳元から聞こえてくる声に、びくりと距離を取る。

「これはここがミソで…」

サラサラとシャーペンを手に取り、解説を書き込んでいくタク。

「あ、なるほど!てことは、ここがこうなるから、こっちがこう?」
「そうそう、落ち着けばわかるだろ?じゃあこっちやってみ…」

タクが振り向いた距離があまりにも近くて、思わず固まる。
外すに外せない視線に、奇妙な沈黙。
カタン、とシャーペンの落ちる音に、ハッと我に帰る。