「…早くない?」

ものの10分ちょっとで食べ終えたタクと、自分のビビンバの残りを見て、自然と眉が寄る。

「前から思ってたけど、沙穂って猫舌だよね」

一生懸命、熱い鉄釜に入ってるビビンバをフーフーと冷ます。

「だって!すっごく熱いんだよ!」

生卵がジューと音を立てて卵焼きになるくらいなんだから!

「フーフーしないと食べらんねえんだ?」
「ちゃんと冷めるからいいの」
「ふっ、かわいいな」
「…はい?」

なんか変な言葉が聞こえたような。
空耳?
パッと顔を上げてタクを見る。

「焦らなくていいから」

すごい優しい眼差しで見ていた。
え、ちょ、なに…。
そんなに見つめられると、どうしていいのかわからない。
思わず視線を彷徨わせて、慌てて手を動かす。
…タクってそういうところある。
突然ドキッとするようなこと、する。

「あっつ、」
「焦らなくていいって言っただろ」

タクが、水を渡してくれる。
照れ隠しで慌てて口に入れたの、バレてるし。
ごく、と飲んでから気づいた。
…これ、タクのお水じゃん。
そういえば私のはさっき飲み干しちゃったんだったか。
気づいてしまったら、意識してしまう。
なんだか妙に恥ずかしくなってきて、私は必死で悟られないようにビビンバを頬張った。

「本当、…」

何かいいかけたタクの声に、ん?と反応するも、タクは首を振って窓の外に視線を移した。
変なの。