一年の教室の並ぶ三階の女子トイレで二人ならんでリップを唇に塗った。

「幼なじみの南くんやっけ、置いてってよかったん?」

「ええよ。友達おったみたいやし。」

オレンジ色のリップは明るすぎず薄すぎず、艶を作った。
恵里香はピンクブラウンの大人しい色で顔立ちによく似合う大人っぽさがあった。

「じゃあええな。小竹から連絡来てたし、もう行こうや。」

「あ、ホントや。」

二人は乗り遅れないうちにと、メッセージを受け取ってから直ぐに学校の最寄り駅の近くにあるカラオケ店に駆け込んだ。

入ってすぐの大部屋を取ってあるらしく、衣奈と恵里香はガラス越しにこっそり覗いてみた。
10人程が楽しそうに歌ったり、手を叩いたりしていた。

誘ってきた張本人である小竹清依はおらず、二人は入るか否か迷っていた。
目を合わせ、肩を竦めると衣奈と恵里香の肩を抱いて「何してんねん!」と明るく言う清依が現れた。


「小竹!アンタおらんで入れんかったんやんか。」

「おぉ、悪い悪い。ちょっと電話しとったんや、ほら入って入って。」

清依はドアを開けて二人を背中を無理やり押して「はーい!俺と同じクラスの新しいお友達〜!」と言った。

清依の声に視線がコチラに集まり、衣奈と恵里香は思わず頭を下げた。

「ロングが恵里香でショートが衣奈ちゃんね。」

「よろしくね〜!」

「よろしく!」

明るい声にホッとした二人は端の方のソファに座ると清依が外側に座った衣奈の隣に無理やり入ってきた。

「はい詰めて詰めて。」

「わ。」

「恵里香と衣奈ちゃん、ちょっと化粧してんのな。」

清依はフフッと態とらしく笑うと隣にいた衣奈の顔をジッと見た。

「……いや、普通するやんか。」

「そやな。あ、ジュース取りに行って来たらええよ、二人共。」

その言葉で衣奈はようやく息が出来た気がした。

「行こ、恵里香。」

慌てて恵里香を連れ出した衣奈は部屋を出ると黙ってドリンクバーのコーナーまでズンズンと歩いていった。

オレンジジュースのボタンを衣奈は押して、小さな声で呟く。

「ヤバいわ、小竹くん……。」

「え?!衣奈、惚れた?」

「いや、ちゃうんやけど……なんか、なぁ。」

二人は清依のあのトロンとした目を思い出すとため息が出てしまう。

「……取り敢えずヤバい。」

「わかるわぁ。」


衣奈はカバンに入れっぱなしのスマホがなり続けているのに気がつかなかった。