入学式が終わって体育館から再び教室に戻る途中、またしても友達に呼ばれた清依は廊下に屯しに離脱していた。
さっきまで話していた衣奈と恵里香に「後で戻るからテキトーに誤魔化しといて。」と言って消えた彼に恵里香はもう夢中だった。

「やばいわぁ、小竹……あんなの近くにいたら頭おかしくなりそぉやわ。」

「確かにカッコいいなぁ。」

「ま、衣奈の幼なじみもそこそこイケてんで。」

教室の端でクラスメイトと話す南を指さす恵里香は衣奈の顔をつついた。

「南?雰囲気で得するタイプやな、南は。」

仏頂面と無口と人見知りがクールに見せて、南は大人っぽく感じるらしい。
おチャラける男子を差し置いて落ち着いていた南はカッコいいんだそうな。

「ふぅん。確かに落ち着いててモテるわ、ありゃ。」

恵里香は南を見てウンウンと頷いた。

「はーい、HRを始めます。」

ザワザワとした教室は騒がしさをそのままに物音だけが消えた。
若い可愛らしい顔をした担任は顔に似合わない低めの芯のある声で「席に着いて下さい。」と言うと教室の端から端まで目を通した。

恵里香は後ろ向きになっていた身体を戻して前を向くと、担任が衣奈の隣の空席を指さした。

「そこの席誰ですか?」

「……あ、小竹くんです。」

「小竹清依くんね。どうかしたの?」

衣奈は「テキトーに誤魔化しといて。」と言った彼の言葉を思いだし、どう誤魔化そうかと唇を動かすと恵里香が気だるそうに「トイレ行くって言ってました。」と言ってチラリと衣奈に目配せしてから笑った。

こういう時上手い事出来ない衣奈はホッとして恵里香に小さく手を合わせた。

「じゃあ先に始めますね。
担任の藤咲エミです、新任で頼りないかもしれませんが頑張るのでよろしくお願いします。」

フワリと笑う顔に花を添えたような慎ましさと麗しさが目に見えるようだった。

フワフワ系だけどやり手のタイプ、衣奈と大半の女子はそう思った。



結局、HRが終わるまでに小竹は戻って来なかった。