「お、岡高?ほんまに?」

愕然とする圭兎(けいと)(みなみ)が頷くと、圭兎は切れ長の目で南を強く睨みつけた。

「お前には聞いてへん、僕は衣奈(えな)に聞いてんのや!」

「はァ?」

南はタレ目がちな目を眉を寄せて細めると、呆れ顔の衣奈がため息をついた。

南に聞こうが私に聞こうが結果は変わらんのになぁ、と衣奈は思ったが何も言わなかった、圭兎が余計ややこしい態度をとるだけだと予想したからだ。

「私、岡高行くよ。あ、受かったらやけど。」

「あッかーん!あかんて!!」

学ランを着崩す南とセーラー服のリボンとスカートがヤケに短い衣奈は久々に取り乱す圭兎をどうするか、チラリと目を合わせた。

衣奈はガタガタと肩を揺らされる始末で参ったもんだった。

「なんでそない野蛮なとこ行くん?!岡高なんて野蛮やわァ。」

「何言うてんねんコラ。」

「野蛮やんか。まず南も野蛮やもん。
野獣や、危険人物。」

「ほんまに一回シメたろかい。」

普段口数の少ない南も口が達者な圭兎とは良く話す、まぁ口が達者故に南の地雷をつつきたい放題しているだけなのだが。

ケンカする程仲がいいって言う事で纏めておくことにする。

「な、考え直してーや。青蘭行こうや、一緒に。」

「ゴメンな。岡高で南の応援するって決めてもーたし……。」

「頼んでへんけど。」

「……それに、受験一週間前に言われてもどうしようも無いわ。」

冷たい風がワンワン嘆く圭兎の横を通り過ぎ、素足の衣奈は少し震えた。

衣奈は確かに南がいなければ風紀は良くないし岡高は選ばなかった、と悴む手を温めるとマネキンみたいにツヤのある細っこい黒髪が木枯らしに吹かれるのを見た。

バスケ部の応援怖いもんなァ。

岡北高校のバスケ部は県内有数の実力だが、応援がヤジだらけで他の観客が萎縮してしまう程なのだ。

「僕より南?!こんなにチビやのに?」

「チビちゃうわ。」

「そうだよ。土屋くんがデカいだけや。」

南が少し見上げるくらいの背丈の圭兎は色素の薄いサラサラの髪を乱してガックリと項垂れた。

「僕、高校は衣奈と一緒や思て……それを目標に生きてきたのに。」

「んな大袈裟な。」

「大袈裟ちゃうよ。僕……もうバスケしか集中出来へん。」

「充分やんけ。」

「あかん……土屋くんはバスケしか取り柄ない超絶イケメンエースって言われてしまう。」

「コイツが正気かどうかがホンマ分からん。」