一ノ瀬麗央。
彼が私の好きだった人。
クールで無愛想で、どこか当時から大人びていて、独特の空気感をまとっていた。でも彼の周りには人が集まる。たまに、うんざりしているときもあったけど、人柄なのかなんなのかはわからない。それでも楽しそうにしていた彼が、私は大好きだった。

久々に見た彼は、またすこし大人の顔つきになっていて、良く似合うスーツ姿に綺麗な佇まい。左手の薬指にはきらりと光る指輪。


そして、昔よりもよく笑う人になっていた。
それでも、どこか寂しげなその目に、釘付けになってしまう。それは彼の独特な雰囲気のせいなのか、私の意思なのか。

「蒼唯......。」

名前を呼ばれてハッとした。優理の顔を見ると、どこか悲しげな表情をしていた。
優理は、あんなに応援してくれて、服まで選んでくれて。なのに...。何も出来ずに終わってしまう。高校の頃と同じことを繰り返すことになる。思いを伝えられずに終わってしまう。それでも今更私に何が出来るのだろう...。
「麗央の奥さん、俺見た事ないんですけど〜」
「俺もー。ちょっと写真ないのかよ」
その言葉に耳を傾けた。私とは、あまり仲良くはなかった男子たちだ。私が輪に混ざることは出来ない。それでも、彼の『妻』という存在は気になってしまう。
「新婚旅行の時の写真なら...」
「お、見せてよ〜」
新婚旅行。その言葉に本当に結婚をしているんだという事実に、動揺を隠せないでいた。