「あんた誰。」
初めて声をかけられた時とは違う。
あの時よりも冷たいその言葉が、頭の中でぐるぐると回る。たしかに、彼なら有り得るかもしれない。
全然話をしてこなかった訳でもない。だけど、特別と言って仲が良いわけではなかった。
むしろ、颯汰くんの方が仲が良かったかもしれない。大学まではそれなりに連絡も取り合っていた。だけれど、麗央くんの話は一切でなかった。だそうとしなかった。お互いに。


ただ、それだけ。それだけの関係だった。


彼との思い出はもしかしたら、私の夢物語に過ぎなかったのかもしれない。それでも、私は彼との思い出を忘れることなんて出来ない。彼を忘れることなんて出来やしない。
できることならば、もう一度彼と共にすごした日々を、味わいたい。思い出したい。
もう少し私が、積極的に声をかけていれば。
もう少し私が、彼と親しければ。心の底から、彼を知っていれば。私に勇気があれば...。
おこがましいのはわかっている。

後悔の念が募った。




次の瞬間、暗闇に覆われていた空間に、一筋の光が差し込んだ。暖かく、全てを包み込んでくれるような。そんな光。
刹那。信じられないほどの頭の痛みが、全身に走ったのだ。