どれくらい経っただろう
短いようで長い気もする不思議な時間

薄暗い廊下で身動ぎもせずに目の前の襖を見つめ続ける

やがて・・・
音も無くサッと開かれた襖から
眩しい光が降ってきた

どうぞと手を差し出され
向けられた先には

上座の席に立つ大澤碧斗組長と
その脇に立つ兄、その向こうに桧垣さんの姿があった


「ここへ」


組長の呼びかけに大広間に足を踏み入れた


「「「・・・」」」


途端に騒つく広間
想像していた反応に舌打ちしながら
組長の隣に立った


「龍神会、二ノ組 田嶋愛だ」


「「「「え」」」」


更に騒つく広間の男達
苛つく気分そのままに妙に冷えた目を向けた


「「「っ!」」」


新体制を発表する組長が選んだのが
どう見ても十代の小娘
納得いかない想いが渦巻く様子が見て取れる

しかし・・・

組長が決めたことを覆す程の発言権はどの組も持ち合わせていない

そのことが私に向けての敵意へ繋がっているようだ

その中でただ一人


「組長、二ノ組田嶋組は取り潰しじゃ」


漸く立ち上がって口を開いたのは
三ノ組桧垣組傘下の虎勢会組長である白虎聖持《しらこせいじ》


「あぁ、そうだ、だから田嶋組とは言ってねぇよな」


組長の射抜くような視線と低い声に
焦った白虎組長は足元から崩れるようにストンと席に座った

桧垣組の傘下で一番の大所帯の虎勢会
代替わりで三ノ組に昇格できると触れ回っているという情報は入っていた

自分の組が上がれないばかりが
小娘に出し抜かれたと知って
焦っていたのか

どちらにしても墓穴を掘ったことに違いはなかった