橙美さんの手によって着付けられ
奈美という付き人によってメイクを施された


「髪はそのままにして」


頭痛薬で治った頭を触られたくない訳ではなく

ストレートの黒髪をそのまま楽しみたかった

それは

数日前に幼稚園以来久しぶりに前髪を切ったことにある

長い間不自然に長い前髪で顔を隠していた

それを眉毛の下あたりでカットし
視界が開けた

ただそれだけで
俯き加減の毎日からも解放された気分

日本人形のような艶めく黒髪を
そのまま表したかった

「愛、可愛い」

部屋の隅に居たはずの颯が
姿見の前で動かない私の隣に立った


「あんたも発表会みたいでかっこいいよ」
 

そう言って声を上げて笑うと
口を尖らせて拗ねた


「馬鹿にしてるだろ」


「かっこいいって言ったのに?」


「発表会ってなんだよ」


「あ〜馬鹿にしてた」


クスクスと笑うと釣られて橙美さんも笑った


「帰ったら覚えとけよ」


不敵に笑った颯に


「今夜は一平のマンションに行くから」


さっき届いたメールを思い出して伝えると
 

「え?」


直ぐに驚きの顔に変化した


「泊まるってことか?」


「うん・・・そうなるかな」


「え・・・」
 

固まってしまった颯

なにかおかしなことを言っただろうか?
考えても思い当たることもなくて


お茶に誘ってくれた橙美さんについて行くことにした