バルコニーに出ると
大きく深呼吸をする



ソファの脇を抜けて手摺まで歩くと
まとわりつく風の香りに秋の終わりを感じた



敷地内に見える新しい護衛は
全て一平が揃えた

今のところ天井さんと颯は大澤本家預かりらしい


暮れそうな空を見上げていると



「愛様、食事の用意が出来たそうです」



部屋の中から声がした


振り返って部屋に入り
勇気と一緒に一階下へ降りた



「愛ちゃん、座って」



ヒラヒラのエプロンを着けた
恰幅の良い年配の女性がキッチンとテーブルを忙しなく動く

この女性は沙都子《さとこ》さん



「テメエ、愛様にそんな口!」



途端にキレる勇気を手で制しながら
促されるままに座った


手際よくテーブルに並べられる食事は
母の作る料理と味が似ている

南の街で崩した体調は沙都子さんのお陰で直ぐに治った

二週間離れただけで不調をきたしたと知った一平が
上機嫌になったのが面倒だったけれど

それもまた事実と受け止めることにした



「いただきます」



手を合わせると



「勇気もお食べ」


視界の隅に柔らかく微笑んだ沙都子さんが見えた


末席に向かい合わせに座り
漫才のようなやり取りをする二人は親子だ


冷酷な勇気も母親の前では
感情が現れるようで面白い


クスッと笑うと


勇気は照れくさそうに頭を掻いた



この人選も一平によるもの

要塞に出入りする中でも
私の身の回りの世話をするのは同性に限定して探したらしい



思惑通りではあったものの
沙都子さんは本当に気が利く人物で

直ぐに打ち解けた

砕けた口調で話すのを求めたのも私

新たな人選にあった少しの不安は
思ったより居心地良くて直ぐに消えた