(愛、ご苦労だった)

「はい」

(大丈夫か)

「特に問題ありません」


仕置きの報告を受けた組長から電話があったのは
勇気が要塞に戻ってきた時だった




電話を切ると勇気の顔をジッと見つめた



「田嶋の冷姫」


「え?」



突然投げた言葉に驚いた勇気も
直ぐに意味を理解した



「アイツらですね」



私が大澤組の倉庫を出た後で
組員達の口から漏れた声



『一ミリの情けも無いなんて』

『まさしく冷姫だ』

『二ノ組に仕えるのが怖い』



ボソボソと話す声は
全てマイクが拾っていた


それを編集せずに組長へのメールに添付させた
さっきの電話の意味はそこを心配してのことだろう



「勇気も嫌ならあっちに戻す」



組員とはいえ私が声をかけなければ
今でも大澤の本家に仕えていたはず



「俺じゃお役に立てませんか?」



揺るぎない瞳を見ながら



「大澤の土台作りはまだ手緩い
それに慣れているなら足手まとい」



さっきまでの仕置きを思い浮かべながら返事を待った



「自惚れですが・・・」



そう言うと真っ直ぐこちらに視線をぶつけてきた


「愛様の望む強さを俺は持っています。
愛様の望む冷酷さも俺は持っています。
愛様の強さと冷酷さが俺の目標です。このままお側に置いてください」



淀みなく答えた後で頭を下げた


少しホッとした胸の内は隠したままにした



「勇気以外は大澤に返して」


「直ぐに」



再度頭を下げる勇気の脇を通って
夕陽に染まるバルコニーへ出た