上半身を起こした尋の背中を
ボンヤリ眺める

どうしても目に入る牡丹


気が付けばまた手が伸びていた


「愛?」


頭だけ振り返る尋から隠れるように
牡丹に触れる


「愛」


「ん?」


「牡丹になんかあんのか?」


「なにも・・・ない」



誤魔化せない気持ちが胸を詰まらせる


「そうか」


もう一度視線を絡めると

揺らがない尋の瞳の強さに
フッと肩の力が抜けた


「一平さんとの愛は家族愛
家族愛は呪縛だ、でも・・・
囚われる必要の無い愛情」


「一平との愛情が呪縛?」


「そうだ」


「それを二人とも勘違いしてるだけだ
説明できない感情を一平さんに感じたことないだろ?」


「・・・例えば?」




勘違いだと言うのなら、それは
枷を掛け続ける私からの呪縛?



一平を目の前にして
呪縛だと言い切れるだろうか

自問自答ばかり繰り返す私に
尋は「目を閉じて誰が一番に浮かぶか考えろ」と頭を撫でた


「朝起きて一番に“おはよう”を言いたい相手」


「・・・うん」


「美味しいもん食べた時に食べさせてあげたい相手」


「・・・うん」


「熱出して辛い時に側に居て欲しい相手」


「・・・うん」






「最後に・・・
もう二度と・・・会えなくなるなら
何を犠牲にしても会いたい相手は?」


「・・・っ」


一瞬で目蓋の裏に浮かんだ




もう二度と会えないのなら・・・



私は迷わず最後に








あの笑顔を見たいと思う




説明できない感情





あぁ、なんて・・・
心は簡単に答えを導き出すんだろう