・・・手放したくない




胸の中に灯った想いは
急速に膨らんで気持ちを混ぜる


「どうした」


背中側からふわりと抱きしめられると
グリーンの香りとタバコの匂いがした


「今、抱えてる案件は手離せない」


「あぁ」


「だから、それが終わるまでは此処から出ない」


「愛?」


頭の天辺に何度も落とされるキスに
誤魔化されないように


「交渉の余地は無いから」


ワザと語気を強めた


「・・・分かった」


さぁと手を引いた一平と
天井さんのところへ降りる


「愛様」


涙をいっぱいに溜めた瞳のままで
ぎこちなく頭を下げると笑顔を見せた天井さん

敢えて触れず


「お腹空いた」


口元を緩めると


「はい、すぐに!」


何度も頷くとキッチンへと消えた


向かい合わせに座るかと思っていたのに

隣に座った一平は片手を繋いだまま
頭を撫でては微笑む

何か言いたげに向かいに座った颯を完全に無視したままの状態に

暫くは黙って待っていた颯が割り込んだ



「あの・・・」


「あ゛?」


一平の纏う空気が冷えたことに声をかけたものの次の言葉が出ない様子で


「なに?」


視線の端に捉えていた颯に仕方なく焦点を合わせた


「週末の期限とこれからのことはそのままか?」


一番聞きたかったことだろう
キッチンの中の天井さんもチラチラとこちらに視線を向けている


繋がれた手から一平の探るような熱が伝わって

曖昧に済まないことにため息を吐き出した