一緒に戻ろうと言われたのに
まだお庭に居たいと一人で残った

離れの先、屋敷の裏手にある大振りの桜の木を思い出して足を向ける


「あった」


子供の頃、両親に連れられてここに来ると兄とずっとお庭で遊んだことを思い出す

帰りたくなくて軒下、離れ、物置・・・

いろんな所へ隠れたりもした

あの頃高くて自分で登れなかった桜の木は下の枝が案外低くて


「イケるか」


今なら平気な気がした

折れたりしないでねとスッカリ葉桜になった木に登ると
あの頃のように枝に座った

目の前に広がる景色は同じなのに
ちっとも怖くない

太腿の下に当たる幹の感触に
ふと昔を思い出した

・・・そういえば

私の左の太腿の裏には
この木から飛び降りた時に出来た
縫合傷がある


・・・なんで飛び降りたんだっけ?


今なら平気な高さも子供の頃なら
怖かったに違いないのに

記憶の扉を叩いてみたけれど
反応が無くて。どうせ大したことではないだろうとクスッと笑った

風が心地よくて時間を忘れる
遠くの景色を眺める私の足元で


「チビ!ここでなにしてる」


聞き覚えのある声がした


「へ?」


驚いて下を見ると


「・・・っ!」


大澤紅太が立っていた


「降りてこいよ」


「?」


ほら、と両手を広げた


・・・どこかで


見たことのある風景だと感じた

でも


「受け止められないよ、私重いから」


気怠く返して降りる気はないと目線を外した