「あの女に決まったじゃない」
「あんな女のどこがいいの!」
「髪の毛のせいよ!」
思惑の入り混じる声が飛び交う中
兄の腕の中の女が兄を見上げて
「一平」と呼び掛けた
「ん?」と微笑んで視線を合わせる兄
その微笑みですらギャラリーの女達の悲鳴を誘う
「・・・なんで?」
また身体から力が抜ける気がした
名前を呼んで良いのは私だけじゃないの?
日替わりの女にも名前を呼ばせるの?
「妹じゃないから?」
込み上げる感情をコントロール出来なくて
下唇を噛んで堪えていたものが
堰を切ったように溢れだした
「愛っっ!!」
私を追って出てきた颯の声が
背中に打つかった
その声に弾かれるように
輪の中心に居た兄が顔を上げた
「あい」
私の存在に気づいた兄が
驚きの表情で口を動かしたのを確認すると
歪む景色と両脚の力が抜けた
「「愛っ!」」