「嘘じゃないの」
本当よ、でも今じゃもう何を言っても聞き入れてもらえない。今では消し炭にしてしまいたいほど憎くても、あの日の笑顔は嘘じゃなかったと、証明する形があってもいいと思う。
「顔も見たくないんだって」
「呼吸をするように私を毛嫌いしていたわ」
「私全部知ってるの」
「私が先に傷つけたから、嫌な思いをさせたから、
あの子にとって私は悪夢でもう二度と還れないのね」
心が速やかに死んでいく。
心臓が溶けると灰色になって萎むって昔童話で読んだことがある。色をなくして胸から落ちて、そして灰になって土に還るのよ。心が落ち窪んでくすんでしまったら、人は人にもなれやしない。
人の形をして生まれてきたのになんだかとても滑稽ねと、顔をあげたら涙が出た。
「こんなことなら、本音をぶつけて殴ってやるんだった」
「モネ、モネは人を殴れるの」
「きっと出来たわ、もう昔とは違うもの」
「そうかしら」
「ねえ、傷つけた私が言うのもなんだけど、傷つけられたから傷つけていい理由にはきっと絶対ならないわ」
ならないわよ、それが成立するんなら、傷はひっくり返ってしまうこと。あの子は知っているだろうか。あの子の世界が好きよ。選ぶ色が好き。言葉は冴えていて、本当に澄んでいるのに、私の前でだけ酷くいびつに歪むのね。
「好きの裏返しだからきっと余計憎いのよ」



