マンションに着いて 私が コーヒーを淹れていると

京一は 荷物を開き 小さな箱を 取り出した。


「はい。涼子 お土産。」


京一の隣に 座った私に 京一は 箱を手渡す。

「ありがとう。開けてもいい?」

「もちろん。」


京一は 軽く 私の肩を抱いて 嬉しそうに微笑む。

丁寧に 包みを解いて 箱を開く。

「わぁ…」


ショパールの ハッピー・ダイヤモンド。

以前 撮影で 嵌めたことがあって

その写真を見ながら 京一と話したことを 思い出した。


「京一さん…覚えていてくれたの…?」


文字盤の中で ダイヤが揺れる 

可憐なデザインに 惹かれたけど

私に買えるような 値段じゃないことを。


「実は…ジャーン。俺も 買っちゃったの。」


京一は 大き目の箱を 取り出して

私の目の前で 開いて見せた。


同じメーカーの クロノグラフ。

紺色のフェイスは 大きくて

きっと 京一の腕に 似合うだろう。


「……」


私は お礼を言うことも できずに

黙って 京一を 見つめる。


「涼子。付けてあげるよ。」


京一は 私の手から 時計を取ると 

私の左手に 嵌めてくれた。


ずっと堪えていた 涙が溢れ 

私は 右手で 口をふさぐ。


「俺も 付けてみよう……どう?似合う?」


照れたように 京一は言って 私を 抱き寄せた。



堪えようとしても 溢れ始めた思いは 

止めることなんて できなくて。


私は 徐々に しゃくり上げて 号泣してしまう。