「このまま 部屋を取って すぐに 涼子を抱きたい気分。」

京一は 少し照れた顔で そんなことを言った。

「フフッ。京一さんは タフね。でも 今夜は ゆっくり眠って。」

「まさか。涼子抱かないと 眠れないよ。」

「どうしたの…?」

京一の 熱い言葉に 私の方が 照れてしまう。



ホテルの ダイニングを出ると

私達は エントランスから タクシーに乗った。


「涼子には 時計を買ってきたよ。」

「わぁ。ありがとう。忙しいのに…ごめんね。」

「ううん…でも 涼子。たまには 一緒に 買いに行って 2人で 選びたいな。」


京一の 優しい言葉に 

さっき 堪えた涙が また浮かんで…


私は 慌てて 窓の外を見る。


東京の夜は 宝石箱のように

色とりどりの 灯りが輝き。


私の心には 華やか過ぎる 光に

胸が 揺さぶられて 息苦しくなる。


私は こんなに 京一が好きなのに。

どうして 京一を 裏切ってしまったのだろう。


もう 二度と あんな事は しないから…


許されるとは 思わないけど。

お願い… これからも 側に居させて。


「お父さんとお母さん 元気だった?」

黙って 外を見る私に 京一は 声をかける。


「元気よ。そうそう…実家の隣に 高校生の子がいるんだけど。その子が 私の載った雑誌を 母に 見せてくれるんだって。」

「へぇ…涼子も すっかり売れっ子だからね。」

「まさか…でも 母は 喜んでいたわ。私の姿を見て 安心するって。」

「自慢の娘だろうなぁ。まあ 俺も 自慢だけど…」

「エッ?やだ…恥ずかしいじゃない。」


少し 沈んだ私を 盛り上げるように

京一は 明るい口調で 話し続ける。


長い旅から 帰って 疲れているのに。

気を使わせてしまって ごめんなさい。


でも 今日は 思いが溢れて…

いつものように 平気な顔で 笑えない。


もし タクシーの中じゃなかったら

京一の胸に 抱き付いて 泣きたいほど。

私の感情は いつになく 昂っていた。