銀座のホテルで タクシーを降りて

京一は クロークに荷物を預けると

「涼子。鮨でいい?」

と 私に聞いた。


「もちろん。ボストンでは 毎日 何を食べていたの?」

「ロブスター ばっかり。」

「へぇ。海が近いの?じゃ 魚介類 美味しいでしょう?」

「ロブスターとか牡蠣とか。でも 大味なんだよなぁ。」

「フフッ。アメリカっぽいね。」

「何でも 大きくてさ。繊細じゃないんだよ。」


カウンターに 並んで座って。


握りたての お寿司を 

京一は 美味しそうに頬張る。


「うーん。美味しいっ。」

アメリカ帰りじゃなくても 

このお寿司は 美味しい。


私は 笑顔で 京一を見つめる。


「ボストンって どんな所?」

「いい所だよ。日本より 少し涼しくて。自然も いっぱいあるし。」

「へぇ…少しは 観光も できた?」

「まさか。毎日 ホテルとホールの往復だよ。」

「そっか。残念だね…」

「ゆっくり 行きたいね。涼子と。」

「うん…日本でもいいよ。一泊でも…」


つい 言ってしまった 健気な言葉に

私は 涙汲んでしまう。


「涼子……」

京一は 私の目を じっと覗き込む。

「ワサビが 沁みるわ。」

私は そっと目尻を 抑えた。


「次の出張は 一緒に行くか?」

京一は 何を思って そんなことを 言ったのだろう。

「ううん。お仕事の 邪魔になるでしょう…遊びじゃないんだもん。」


わかっているから 大丈夫だよ…


そう思って 京一を見たけど。

やっぱり 大丈夫じゃないかも…


私の瞳には 溢れそうな涙が 

目の縁で ギリギリ留まっていた。