「何か 森尾先生のこと 追い返したみたいで…悪いわ。」

私は 京一を見上げて ポツリと言う。

「ハハハッ。追い返したんだもん。」

京一は 妙に色っぽい笑顔で 私に答えた。

「もう…いいの?京一さん。」


「いいさ。せっかく 涼子が来てくれたんだから。どこかで 食事して帰ろう。」

「長いフライトで 疲れてない?」

「大丈夫だよ。ビジネスクラスだから。ずっと眠って帰ってきたし。」

「そう。京一さんも 明日は 午後からなの?」

「うん。今夜は ゆっくり休めるよ?」

「んっ?」

「涼子…今日は 一段と綺麗だね。」

「嫌だ…恥ずかしいじゃない。」


京一に 肩を抱かれて 歩きながら 

私は ポッと 頬を染めてしまう。


ずっと こうしていたい…

いつも こうしていたい…


私は 京一が好き という気持ちに

押し潰されそうに なっていた。


もし今 病院から 呼ばれたら 行ってしまうの?


胸をよぎる 小さな不安。


京一が 海外にいる時は 

別の人が 患者さんを 診ているのだから。


普段も 他の人に 任せることは できないの?


親身になって 診察する 京一だから

私は 惹かれたのだけど…


やっぱり もっと 一緒にいたい。


タクシーに 乗り込むと 

京一は 私の肩に凭れて 目を閉じる。


肩に感じる 京一の重みが 愛おしくて…


私は そっと 京一の手を 握った。