タクシーの中 私達は 黙ったまま。


まだ 今日帰れる 確証は ないから。

お互いに 最悪の時の 言い訳を 考えている。


もし 京一に 知れてしまったら

どんな言い訳をしても 無理だと思う。


私は 京一の前から 消えるしかない…


こんなことに なるなら

旅行なんて しなければ よかった。


圭介と 付き合わなければ よかった。


京一を 失う恐怖に 私は 涙が滲み

奥歯を ぐっと噛みしめて

窓の外を 見続ける。


その時 ふっと 圭介が 私の手を握る。

隣にいる 圭介の存在さえ 忘れていた。


そっと 横を向いて 圭介を見る。

「大丈夫。今日中に 帰れるから…」


圭介は まるで 自分に言い聞かせるように

情けない笑顔で 私を見て 言った。


「そうね…」

私も 曖昧な笑顔を 圭介に向ける。


沖縄に 着いた時は 

あんなに はしゃいで 乗ったタクシー。


帰る時に こんな気持ちで 乗るなんて。

たった3日前の 私達は 

全く 想像していなかった。



1時間近くかかって やっと空港に着いて。

タクシーを 降りた私達は 

絶望で 顔を 見合わせる。


驚くほど 混んだロビーには ため息が溢れていた。

飛行機を待つ人が こんなにいるなんて。


人混みを かき分けて カウンターへ 向かいながら。

発着案内板には ” 欠航 ” の文字が 並び。


私は 掌を握りしめて

最悪の事態を 覚悟をした。