その夜 京一が 戻ってきたのは

日付が変わる 少し前だった。


インターフォンに応えて 玄関に走る私。


「お帰りなさい。」

「ごめん。待たせたね。」


京一は 玄関先で 私を抱き締めた。

初めての 抱擁に 驚いたけど。

とても心地良くて 安心できて…

私は 素直に 京一に 抱き付いていた。


「先生。私 ここに住むなんて 無理。」

「どうして?俺のこと 嫌い?」

「違う…私 こんな部屋に 住む人間じゃない。」

「ハハハッ。そんなこと 何で決めるの?」


広いリビングの ソファに 並んで座って。

私は 京一に 肩を抱かれたまま…


「涼子。俺 多分 最初に会った日から 涼子のこと 好きだった。」

「事故の日?だって 私のこと 何も知らなかったじゃない。」

「そう。理屈じゃないんだ。一目惚れ?」

「まさか。私 そんなに綺麗じゃないもん。」

「顔が綺麗とか。それだけじゃなくて。涼子の雰囲気とか 話す感じとか。そういうの全部が 好きなんだ。」

「嘘…」

「ハハッ。嘘ってこと ないだろ?その後何度も 病院で 涼子に会ったの どうしてか知ってる?俺 涼子のカルテ見て 来る日を チェックしていたんだよ?」

「えっ?」


私は 驚いて 言葉が見つからない。

本当に 病院で 京一に よく会った。

私は 偶然だって 思っていたのに。


京一は 私を待って 探していたの?


どうして…? 私なんか…?


じっと 京一の顔を 見つめる私を

京一は そっと胸に 抱き寄せた。


「涼子…離したくないんだ…こんな風に 思ったのって 涼子が初めてだ。」

京一は 私の頭に 顔を寄せて囁く。

耳に飛び込む 甘い言葉に

私は 全身が痺れるほど ときめいていた。


「先生…本気なの?信じていいの…?」

そっと 上目使いで 京一を見る私に

京一は そっと頷いて キスをした。


最初は 静かに そっと触れて。

一度 唇を 離した後で 京一は 

溶けるような 長く熱いキスを 繰り返した。