会社のベランダに行くと、今日は葉月より先に月野が来ていた。

月野はベランダの景色を眺めながら缶コーヒーを飲んでいる。

葉月はゆっくりと月野の隣に行くと、「私、選びました」と真っ直ぐ前を向きながら、月野と目を合わさずに言った。

月野は驚いて葉月を一瞥すると、「誰を?」と訊いた。

「翔です」

「あの高校生?」

葉月が頷くと、「マジか。早坂ドンマイだな。で、どうだったんだよ」と興味津々の様子で月野が言った。

「デート、すっぽかされちゃいました」

「はあ? 自分から誘っておいて?」

ひどく驚いている月野に対して、葉月は再び頷いた。

「選んだって言うから、てっきり付き合ったのかと思ったわ」

 自分もそうであってほしいと思った。でも翔は来なかったのだ。

葉月はショックを受けてうなだれると、「これはもう、振られたって言うことなんですかね」と言った。

「いや、何かやむを得ない事情があったんだろ」

「私も最初はそう思ったんですけど、昨日は一日中待っても、待ち合わせ場所に来なかったんですよ。それに昨日の朝からラインしても、既読すらつかないし。だから振られたんだって思って」

「やばいな。まあ、そんな男だったんだよ。長谷川ならもっといい男できるって」月野はそう言うと、活を入れるように葉月の背中をポンと叩いた。

「でも私、せっかく好きだって自覚できたのに、こんな終わり方いやです」

「いやって言われてもな」月野は困ったように言う。

「どうにかならないんですかね」葉月は月野に向かって泣きつくように言った。

 月野は難しい顔で、「うーん」と言うだけだった。

上目遣いになった葉月は「ここは可愛い後輩のためだと思って、何かアドバイスください」と両手を合わせてお願いした。

「どこに可愛い後輩がいるって?」そう言うと月野は周囲を見渡すふりをした。

「月野さーん」

葉月が嘆くと、「アハハ、冗談だって。そうだな……もう会いに行くしか他に方法はないと思うけどな」と月野が言った。

「家もわからない場合はどうしたらいいんですか?」

 月野は眉を寄せ顎に人差し指を当てて、考える素振りを見せた。

「そいつが通う高校に行ってみるとか?」

「不審者に思われないですかね」

「思われるかもな」

「えー、そんな無責任なこと言わないでくださいよー」葉月は月野の腕を掴んで揺さぶりながら言った。

「ちょっ、揺さぶんなって。行かないで後悔するよりはマシだろ?」月野がそう言うと、葉月は月野の腕を掴んでいる手を離した。

「それもそうですけど……」

「そう思うんだったら、つべこべ言わずにとっとと会いに行ってこいよ。それで本人に直接理由を聞いてくればいいだろ?」

 月野の言っていることはもっともだと思ったが、嫌われているかもしれない本人に、直接会いに行くのは勇気がいる。

しかし、このまま会いに行かないとなると、ずっとこの悩みは消えないかもしれない。

葉月はもやもやを抱えながら、心の中で翔の高校に行くか行かないか葛藤した。

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