退院祝いの食事会がお開きになり、葉月と翔は両親に別れを告げ、東京まで電車で戻った。

立ち並ぶ街灯に照らされた夜道を葉月と翔は歩く。

「葉月さん。今日楽しかったですね」

「そうだねー」

「俺、お父さんとお母さんにまた会いたいし、実家に行く時はまた誘ってください」

「えー、どうしようかな」

「ひど! そこは『うん』って言うところでしょ!」

 葉月は吹き出した後、「うそうそ、冗談だって」と笑いながら言った。

「もう、一体誰がお父さんと仲直りするのを協力したと思ってるんですか」

 気色ばんだ翔に、「ごめんごめん」と葉月は謝った。

 葉月と翔以外誰もいない道で、葉月が鼻歌を歌いながら歩いていると、「あの、早坂さんとは最近どうなんですか?」と翔が訊いた。

「早坂さん? 何で? 別に普通だよ」

「前に一緒にご飯に行ってたじゃないですか。だから気になって」

「ああ、早坂さんは会社の人だし、そんな大して何かあるわけじゃないよ」

 早坂とはあれから一度も食事には行っていないし、会社で話すくらいだ。

それなのに、翔は何を気にしているんだろうと葉月は疑問に思った。

「そうなんですか? でも、葉月さんって鈍感だからな」

翔の言うことがよく聞こえなかった葉月は「えっ? 何か言った?」と訊き返した。

「何でもないですよ。それより、葉月さんは早坂さんのこと、どう思ってるんですか?」

「だから、さっきも言ったけど、会社の人だからどうも何もないよ。強いて言うなら、気遣いができる優しい人って言うところかな」

「本当に、それだけですか?」

「本当だってば」葉月がそう言った後、隣で歩いていたはずの翔は急に立ち止まった。

葉月も少し進んだところで立ち止まり、後ろを振り向いた。

「翔、どうしたの?」

「じゃあ、俺のことはどう思ってるんですか?」

「どうって……友達でしょ?」葉月がそう言うと、翔は小さく息をついてから、「そう言うことじゃなくて」と呆れた顔で言った。

翔の質問の意図がわからず、「ええ? じゃあ何?」と葉月は困りながら言った。

「俺は葉月さんのこと、意地っ張りで素直じゃなくて、たまに子供みたいなところもあるけど、それでも人のことを誰よりも考えていて、人の為に行動できる人だと思ってます」翔は真剣な表情で言った。

「最初の部分は余計だよ。でも、褒めてくれてありがとう」

 そう言えば前にこんなことがあった。

翔が自分をどう思っているかわからずに、葉月は『私ってどう言う存在?』と翔に訊いたんだ。

そして翔はその時、『なくてはならない大切な存在です』と自分に言ってきたことを葉月は思い出した。

でも、その意味は結局よくわからないままだったな。

翔は葉月の側まで来ると、「葉月さんは?」と訊いた。

「私は、翔のこと頼りになるなって思うけど、ああ、もう、なんて言えばいいのかわかんないよ」

「ハハ。全く、本当に素直じゃない」

 翔はそう言うと、葉月を優しく抱き締めた。

「え……翔?」

 しばらく抱き締めた後、翔は葉月から離れた。

「俺は葉月さんのことが好きです」