「葉月さん、待ってください」

 葉月は早歩きをしている。その後ろを翔が早歩きで追いかける。

 病院の外まで出ると、葉月は足を止めた。翔も葉月に続いて止まった。

「ようやく止まった。葉月さん、一体どうしたんですか?」

「私、決めたんだ」

「決めたって何を?」翔が首を傾げながら訊いた。

「今から大学にいる莉乃さんに会いに行く」

 葉月は後ろを向いて翔を真っ直ぐ見た。

「莉乃さんって、お父さんの不倫相手のことですか?」

「そうだよ。て言うか、ごめん。その話はもう少し小さな声で話して」

 周囲の人に聞かせるような話ではないため、葉月は翔に小声で話すよう促した。

翔は葉月の言葉通り小声になりながら、「それで、莉乃さんに会ってどうするんですか?」と訊いた。

「正直言うと、手術が終わった後、問題も解決していないのに、あの人と普通に話すことなんて、私にはできない。だから莉乃さんに会って、真実を確かめに行こうと思ってる。月野さんの不倫疑惑の時みたいに」

「確かに、お父さんが不倫してるって思いながら、励ましの言葉とかかけたくないって言う気持ちはわかります。でも、不倫相手に訊くんですか?」

 不倫相手に訊くのはハードルが高いと思っているのか、翔は困惑気味だ。

「うん。本当は本人に直接訊きたかったんだけど、あの状態のあの人にそんなこと訊く訳にもいかないから」

「うーん。莉乃さんじゃなくても、探せば他に訊ける人いるんじゃないですか? あ、でも、お父さんと莉乃さんが不倫していることを知ってる人なんて、いる訳ないか。いたとしても、どうやってその存在を知るんだって話ですよね。と言うことは、やっぱり不倫相手の莉乃さんに訊くしかないのか━━」翔は腕を組みながら、まるで独り言のように言って、自分で解決している。

「そう。だから翔、一緒に大学に行って莉乃さんに会ってくれる?」

「そんなの、もちろんオーケーに決まってますよ」翔は軽快に言った。

 雨は相変わらず降り続けていたが、翔のおかげで葉月の心の中は晴れていた。

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