「ほら行くよ、ハル」

 我が家の愛犬である柴犬ハルは、勢いよく放たれたボールをキャッチしようと走る。同時に息を荒くさせながら、嬉しそうに尻尾を何度も振っていた。

 ボールをキャッチしたハルは、少々圧倒されるスピードでこちらに向かってきた。そして葉月の前まで来たハルは、ボールを芝生の上に置いた。

「よしよし、本当に偉いね。ハルは」

褒められたハルは、「ワンッ」と嬉しそうに吠えた。

 葉月とハルが河川敷の芝生で遊んでいると、背後から父が現れた。

「僕にもそのボールを投げさせてくれ」

 父にボールを渡すと、葉月と同じく勢いよくボールを投げた。父の投げたボールは、芝生を通り越し川に落ちてしまった。

「あっ、しまった。川に落ちた」

「もう、何やってるのお父さん」

 ハルはそのボールを川の中まで飛び込んで取りに行った。幸い川の流れは穏やかで、ハルが流されてしまうほどの流れではなかったものの、父は急いでハルを川から出した。

「ごめんごめん。まさかあんな遠くまで行くとは思わなかった」

 父は足をずぶ濡れにさせながら言った。ハルも全身ずぶ濡れだった。葉月は呆れながらも、自分の持っていたハンカチでハルの体を拭いた。ハルは葉月に一通り体を拭かれた後、自らの体を震えさせ、水を払った。その衝撃で、葉月と父にも水がかかった。

「うわ、もう私までずぶ濡れになっちゃった」

 葉月は皆がずぶ濡れでいるのがおかしくて、大笑いした。父もおかしくなったのか、葉月につられて大笑いを始めた。ハルは何だかわからないような顔をしていたが、その顔は何だか笑っているように見えた。

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