君があの部屋からいなくなったとき、
もう会えないのだろうと悟った。

1人で悩んで1人で解決策を出して
勝手に去ってしまった君に腹が立った。

私が君の招待に気付いてない
とでも思ったのだろうか。

稀代の天才ピアニスト速水 碧。

君がその張本人だってことは
出会ったその時から分かっていた。

昔から変わっていない
つやつやとした黒髪にグレーがかった瞳。

パッと見ただけですぐに気付いた。

雨に濡れていたのは君と話すための口実。

本当はバッグにちゃんと
折り畳み傘を持っていたんだ。

だけど、ここで雨に濡れていれば
君は私に必ず話しかけてくれると
分かっていたから。

いつになっても、
速水 碧は優しいままだ。