その手をぎゅっと掴めたら。


前田先生は担当教科は数学で、30代半ばで我が校ではまだ若い方に入るかな。気さくで面白い男性だ。


「最後に、今週の土曜日に行われる中学生向けの相談会について。相談会には教師だけでなく生徒も参加し、中学生からの質問に答えてもらっているが、うちのクラスからは宮里が引き受けてくれたことはみんなも知ってるよな。ただ家庭の事情で相談会への参加が難しくなった。それでだ、代わりに誰か出てくれないか?」


一斉に、クラス中が下を向く。
関わりたくないという意思表示だ。
私も例外ではなく、そっと机を見下ろした。


相談会にはうちの高校への受験を考えている中学生とその保護者が来校し、我が校に関する説明を色々と受けた後に相談会が設けられている。

私も入学前に参加して、当時の2年生に色々と質問したっけ。親身に答えてくれて好印象だったけれど、人見知りな私に回答者は向かないよね。

勉強はそこそこ、部活に入ってなくて、おまけに友達とは喧嘩中。うん、話せることはないな…。


「土曜日、空いてる者はいないか?昼飯は奢ってやるから」


参加予定の宮里さんは学級委員の女子生徒で、しっかりとした性格で適任だったが、身内に不幸があったようで今日は欠席していた。

誰か手を挙げるまでホームルームは終わらないのだろうか。不穏な空気が教室を支配する。