その手をぎゅっと掴めたら。


この手にある硬貨を自然に葉山くんへ渡せる自信がなくて、お財布に押し込める。


「でも今日は遠慮なくご馳走になるね。ありがとう」

「割り勘か…。君がそのほうがいいなら、分かった」

「うん。飲み物だけじゃなくて、一緒に出掛けたりした時も割り勘ね」


亜夜と外食する時もいつも割り勘だ。
と言っても、私はバイトをしてなくて、唯一の収入が青山さんのコーヒー代。祖父が残してくれたお金を大切に使っている。

バイトした方がいいよね…。


そっとベンチに戻る。
肩が触れないよう、少しだけ間を空けて。


「出掛けた時、ね」


ん?
私の言葉を葉山くんが反復した時、我に返る。

出掛けるーーそれって私と葉山くんが学校の外で会うような言い方じゃない?


でも待って、このままデートに誘うのもあり?
いやいや。
たった今、手を払われた女からデートに誘うなんて身の程知らずだ。