その手をぎゅっと掴めたら。


金曜日 17時。
コーヒーを淹れて、青山さんのわくわくするような話を聞いたり、私の愚痴を聞いてもらえる時間はもう訪れない。

今頃になってそれがどれほど貴重な時間だったかを知る。青山さんはいつも笑顔で、楽しいひと時を共に過ごした。青山さんだからこそ話せることが沢山あった。


「真奈ちゃん、ありがとう」


「こちらこそありがとうございます。おじいちゃんのコーヒーを愛してくれて、私の話を沢山聞いてくれてありがとうございます!とても楽しかったです」


「俺も楽しかったよ。孤独な世界にいる俺を救ってくれてありがとう」


視界がぼやける。
溢れる涙を強めに拭い、青山さんを目に焼き付ける。



「北斗、じゃぁ、またな」


ーー残り40秒。


正確に刻まれていく時。



「またな、瞬」



葉山くんは青山さんにそっと右手を差し出す。


嬉しそうに青山さんはその手をとった。
固く固く繋がれた手。


2人はもう泣いていなかった。



「元気でやれよ、無理してブラックコーヒー、飲むなよ」


「…ああ。瞬も、元気で」


「ありがとう」