その手をぎゅっと掴めたら。


凛ちゃんはよく家族のことを自慢げに話してくれた。うちは私が小さい頃に母親が出て行き、その記憶があまりない分、母親はいないものだと吹っ切れてきたけれど。過ごした年月が多い分、寂しさも大きいだろう。


「はい。私の言葉に応えてくれるかは分からないけれど、連絡は入れ続けます」


「それがいいね。後、北斗」


「なに」


「おまえの母ちゃん、北斗のことすごく心配してるぞ。なにも言わないと思うけど、ちゃんと親孝行しろよ」


「……分かってる」



葉山くんを訪ねた日、お母さんは私が南ヶ丘に住んでいると聞いてなにを思っただろう。顔色は変わらなかったけれど、心中は穏やかでなかったはずだ。それでも何も言わなかったということは、私たちを信じてくれているのだと思う。



「よし、もう本当に言い残したことはないわ」


「…あるだろ。あの日、交差点で瞬は俺に何かを言いかけていた」


「なんだっけな、忘れちゃったよ。なにせ5年も前だから」


「こっちは5年間、ずっと気になっていたんだけど」


「思い出せないものは仕方ないじゃん。北斗も俺に言いたいことないの?文句でも苦情でも」


カウンターに置かれた携帯電話のカウントは残り3分を切っていた。