その手をぎゅっと掴めたら。


パウンドケーキとサンドイッチは好評だった。もっと早く事情を知っていれば、毎回、コーヒーのお供に青山さんの好物をたくさん用意したのにな。


「テニスは辞めちゃうの、このまま」

「もう何年もやってないしね」

「また始めたらいいんじゃないか」

「……考えておくよ」


積もる話もあるだろうと席を外すそうとしたが、青山さんに「最後まで俺たちを見守って」と引き止められてしまった。


「家族には会えたのか」


「ううん。昨年に姉貴の娘が生まれてさ。両親は孫に夢中で、弟は陸上を始めていい記録を出しているみたいだ。俺の家族はそれぞれ明日を生きてる。今更、俺が現れても困惑するだけだ」


「それで瞬は後悔しないの?」


「忙しい日々でも、家族全員が俺の月命日には墓参りに来てくれるんだ。俺はいつまでもあの家族の一員で、今更、それを確かめに行く必要もないだろう…つまり手のかかる子供は北斗だけだよ」


「……悪かったな」


拗ねた子供のように口を尖らせた葉山くんは時計を振り返った。


17時50分。刻々とその時が迫る。


「あ、こっちもカウントダウンが表示されてる」


365日のカウントダウンが表示されていた携帯電話には『0:9:45』と秒数まで表れた。


その数字が0になった時、青山さんは天国に行ってしまうのだろう。永遠の別れが訪れてしまう。


「俺はもう一度チャンスを与えられた人間だからね。ラッキーだと思わないと」


青山さんのポジティブな発言に助けられる。残される私たちを思って明るく振る舞ってくれているのだろう。その想いに応えるため、私たちもつられて笑顔を作った。