その手をぎゅっと掴めたら。


「それじゃぁ、乾杯」

「乾杯」


2人は盃を交わす。

中身はコーヒーだけれど、青山さんは満足そうに頷いた。


「俺はもう思い残すことはないよ」



壁の時計は17時40分を回ったところだ。


今日ほどに時が過ぎることがこんなにも早いと思ったことはない。いっそ止まって欲しい。


「だから、北斗も俺のことは気にせずに自分の人生を生きて。俺は親友の幸せを願っているんだ」


「……」


「北斗は真奈ちゃんに、『ずっと一緒だった幼馴染も、信頼していた親友も、結局は俺から離れていった』って話していたことあったじゃない。それ聞いて悲しかったよ。確かに俺は北斗から離れるしかなかったけど、さくらは違うだろう?あの子のことだから一生懸命、北斗を支えようとしてくれたと思う。人間関係だけでない、自分の人生も全部、おまえ自身が手放してきたんだ。ーー俺のために」


「それは……」


葉山くんは何かを言いかけて、また口を閉じた。


「北斗が自分自身をないがしろにすればするほど、悲しむ人がいるんだ。英知だってそうだろう?もう俺は大丈夫だから、北斗は明日を自分のために生きて」


「……あの日、俺が死ねば良かったと何度も何度も思ってきた。戻らない過去に囚われて生きてきたけどーーもう、止めるよ」


葉山くんは私を見た。


「俺は、佐野と生きて行くから。佐野を幸せにできるよう、自分のために生きて行くから」


「うん。それでいいんだ」


2人に遠慮しなければならないところだったけれど我慢できず、私は声を上げて泣いた。